ベトナム タクシーで偽札をつかまされる

サパからハノイへ戻ってきて、そこからニンビンに移動するという、まさに旅の中継地点。

私はベトナムでタクシートラブルに遭遇しました。

偽札タクシー

一度ハノイでグラブを使ってから、使いやすいさと安さ、料金が事前に表示されることから「ぼられない」という安心感で

「今回もグラブを使おう」

と思っていたのです。

ところが降り出した激しい雨に、グラブタクシーがつかまらない!

タクシーを予約しても「問い合わせ中です」というようなロード画面のあと、「タクシーを見つけられませんでした」という表示に変わるというのを何度か繰り返しました。

このとき、すでに夜7時半過ぎ。

その日、ニンビンではホテルではなくホームステイ形式の宿を予約していて「23時までにチェックインして」という連絡をホストからもらっていました。

ハノイからニンビンは約2時間。

間に合うとは思うけれど、あまり時間の余裕がないな……

 

そんな焦りから、グラブを諦めてタクシーを捕まえることにしたのです。

 

今思えば、その辺のお店どこにでも入って、何か買って「悪いんだけど、タクシー呼んでもらえないかな」と頼めば良かったのですが、私は今自分が下りたバスの後ろで、タクシーを捕まえようと手を上げました。

そんな私に声をかけてきた男性が。

「タクシーに乗りたいの? 俺、タクシーの運転手だから、こっちに来なよ。乗りなよ」

 

数台のタクシーがすでに客を乗せて通り過ぎていたこともあって、私はそのタクシーについていってしまったのです。

 

メータータクシーだけど、なんだか回りが早い?

ドアの脇のバックミラーが片方割れているけれど、ドアのところには料金表もあるしメーターも付いているしで大丈夫かな?

そう思いながらタクシーに乗り込みました。

運転手にバスターミナルの名前を見せると「OK」と走り出します。

なんだか不安だったのでメーターをにらんでいたのですが、なんだか回りが早いような……

しかも、いくら走ってもバスステーションにつかない。

バスステーション(ザバッというらしい)って、そんなに遠いの?

 

不安になり、GoogleMAPで調べてみると、けっこう遠く……

大丈夫かな。

時間がないこともありソワソワしながらタクシー運転手に話しかけます。

「ハノイで生まれ育ったの?」

すると彼は「サパ出身だ」と答えました。

ちょうどサパに行ってきたばかりのこともあり「サパは涼しくて良いよね」なんて返事をしたら、そこから彼が怒涛のように話し出したのです。

かなり早口かつ微妙な英語だったのでほとんど聞き取れなかったのですが、どうやら「マニー」と繰り返し言っていたのでお金についての話らしい……

適当に相槌をうちながら「そういえば私がサパ-ハノイ間のバスの後ろにスーツケースを持って立っていたから、この人は私がサパから戻ってきたことを知っているのでは? ……サパ出身って怪しいな」

そんなことを思ったのです。

その時点で、そのタクシーを降りれば良かったのですが、なんと言って下りればよいかのかが分からず私はそのままタクシーの後部座席で適当に相槌を打っていました。

犯罪タクシーの手口

やがてバスはザバッターミナルに到着。

メーターの金額は280万ドン。

高すぎる気がしたけれど「もういいや、払っちゃおう」

と財布を見ると、500万ドン札と10万ドン札など、ちょうどいい単位のお金がありませんでした。

500万ドン札を渡すと「もう少し小さいお金はないか」と聞かれたのですが「ない」と返答しました。

おつりを探すドライバー。

タクシーのルームランプをつけようとするのですが、ランプが付きません。

そのうちに

「もう一枚500万ドン札ある?」

と聞いて来たのです。

さっき渡した500万ドン札で足りるはずなのに、といぶかしく思っていると、何度も「もう一枚、500万ドン札をくれ」としつこくせがみます。

なんだろうと思いながら、さらに500万ドン札を渡したところ(ほんとうに私、バカ)

彼は20万ドン札を4枚、私に渡しました。

ちょっと負けてくれたのかな?

なんて思いながらお金を受け取ってタクシーを降り、バスターミナルの中に入っていきます。

いろいろな人が「どこへ行くの?」と声をかけてきたのですが、すべて無視してターミナルの奥のチケット売り場へ行くと、なんだか非常に閑散としている……

売り場のお姉さんに「ニンビンに行きたい」と言うと「今日はもう、ニンビン行きは終わった。次は明日の朝」という返事!

まさかの……

「うそでしょ」と思いながらターミナルのバス乗り場に戻ると、それでもたくさんの路線バスが止まっています。

本当にニンビンには今日はもう行けないの?

そんな思いを抱えながら、その辺りにいた人にダメ元で「ニンビンに行きたいんだけど」と話しかけてみたのです。

すると1台の原付が私の隣で止まって、どこに行きたいの?と聞いてきました。

「ニンビン」

と答えたところに、一人の初老の男性が近づいてきて、その原付の男を追い払うようにし、私のスーツケースを掴んですたすたと歩き始めたのです!

かなりビックリしながらその初老の男性についていったところ、バスターミナルの端っこに止まっているバスを指さし「ニンビン」と教えてくれました!

おそらく(勝手な予想ですが)声をかけてきた原付についていくと、チップを請求されるのではないかな、と。

初老の男性はバスターミナルのスタッフか何かで、その事情を知っていて、本当に親切で私をニンビン行のバスまで連れて行ってくれたのだと思います。

優しい……!

特に何も請求せず、彼はふたたびバスターミナルの奥へと戻っていきました。

 

チケット売り場で「ニンビン行きのバスは今日は終わった」と言われたのは、そのバス会社のバスが終わっただけのこと。

夜8時を回っていましたが、ニンビンを経由するバスに乗ることができました!

 

バスの外で若い男性(スタッフ)にスーツケースを渡し「ニンビン!ニンビン!」と伝えてニンビンで降りたいことをアピール。

料金はバスの中で払うんだと言われ、バスに乗り込みます。

こちらのバスも、靴を脱いで上がるタイプで、2段ベッドの完全に横になって移動できる形式。

今度は下の段の席を確保しました。

バスがスタートしてしばらくしてから、スタッフがバス代を集めに回ってきます。

10万ドンだと言われたので、さきほどタクシーのおつりでもらった20万ドンを渡したところ

「これ、違うよ」

と。

え、と思って彼を見てみれば、他の2万ドン札と並べて見せてくれました。

偽札……

明らかに色が濃いし、透かしの部分になんだか分からない人の顔のイラストが付いている。

ホテルに着いてから、念のため撮影。上が偽札、下が本物。

すごくびっくりして、さきほどタクシーでお釣りでもらった他の20万ドン札を出してみたところ全て偽札(コピー)でした。

バスのスタッフがとても残念そうな顔で私を見ていて、「えぇぇぇ……」という感じ。

周辺のお客さんも偽札と私を見比べ「あーあ」みたいな反応……

 

タクシートラブルに合って、考えたこと

やりきれない気持ちで財布をさぐり10万ドンを渡してとにかく支払を済ませたのですが、なんていうか、

騙された自分のアホさ加減が悔しいと

とても悲しいのと

怒りと

いろいろな感情が渦巻きました。

そんな中で、ふと自分の中に生まれたのが

「私はお金をだまし取られたけど、でも私の中の大事な部分が損なわれたわけではない」

という不思議な感情でした。

 

私は騙されたけれど、私が騙したわけではない。

私の人間性が損なわれたわけではないし、私は犯罪者になっていない。

人としての私の価値が落ちたわけではないんだ

 

犯罪に巻き込まれて、お金をだまし取られて、こんな気持ちになるとは思いませんでした。

同時に、あのタクシードライバーに対して、哀れみを感じました。

 

あんなことをしなければいけないほど、あの人はお金に困っていたのだろうか

その行為をするたびに、自分を貶めていくことに気づいているだろうか

そんなことを繰り返しても、自分は少しも高いところへはいけないのに。

 

私がだまし取られたお金は、約70万ドン。

日本円で3500円です。

それがベトナム人にとって、どのくらい価値があるのかは分かりません。

 

その後、たまたま読んでいた小説の中で

大金を手にした男が、そのお金を有効に使うことができず、ただ使い果たし、その後ホームレスになっていくというエピソードがありました。

自分で努力して手に入れたわけではないお金を手にしても、ほとんどの人間はそれをただ、浪費してしまい、そこから何かを生み出すことはできないのです。

自分で働いて手にしたお金なら、その価値が分かるから、大事に使うし、それだけのお金を手に入れることができるスキルがあるということは、継続して同じくらいの金額を手に入れ続けることができます。

そうなって、初めて「価値あるものを生み出す資金」としてお金は生きてくるのではないかと思うのです。

 

彼が犯罪で手に入れた70万ドン。

 

どうせろくなことに使われないだろうし、彼が堕落していくのを助長していく資金になるのだろうなと思います。

 

 

ちなみに彼に渡された偽札は、ニンビンのホテルで写真を撮ったあと破り捨ててしまったのですが

 

……警察に行って被害届を出せば良かったです。

これって、旅行保険の対象になったよね……